息子の手紙

(2012年10月26日の記事)

親になるとは、大変なことだなあ。

相手はまだ自己確立されてない未熟な存在であると同時に、一個の個性ある人間だ。
物の見方、考え方、感じ方
必ずしも自分と一致するとは限らない。

夫と結婚することによって、思春期真っただ中の男の子の親になるのだと認識したとき
とてつもなく難しい課題に自分が首をつっこむことになると、ある程度覚悟はして嫁にきたつもりだったが、、、

いやはや
想像以上だった。

ある日突然、人の子の親になるということ。
その子が例えば、まだ乳児/幼児だったら状況はかなり違うと思うが
ある程度成長した子供の親に突然なるということ。

生半可な覚悟では対処できない。

その子のお父さんがどんなに好きでも、どんなにいい人でも
私は他の人にはあまりオススメできない。本当に大変だから。

マイケルが家に戻ってきて1ヶ月。
以前と比べると随分と大人になったが
それでもその間
前のブログにも書いたように車がポシャったり、それ以外にも色々なすったもんだがあった。

そして昨日の朝。
仕事へ行こうと朝自分の車が停めてある駐車場へ歩いて行くと、なんとマイケルが私の車の脇に立っている。
青白い顔をして立っている。。。午前7時半ぐらいのことである。
夫はまだベッドの中だった。

私:こんなトコで何してるの??もしかして寝てないの?あんた今日も仕事でしょう?

マイケル:I messed up… I am sorry. I messed up.

うひゃ〜、今度は何をやらかしたんじゃ?

話を聞くと、、、詳細には触れませんが、はい、やらかしてくれました うるうる

天をも見上げたい気持ちだった。
、、、が
出勤しなければならない。そこから軽く1時間は渋滞の中を運転しての通勤だ。雨もふっているし今日は大学まで1時間半かかるかもしれない。仕事に遅れるわけにはいかない。

マイケルとは5分も話をすることができず車を発車させた。
バッグミラーにあの子が見送っているのが見えた。

思春期の子供は、実子であってもとても難しいと思う。
ただ、
いきなり思春期から参加した私のような step motherの、最大の弱点は
子供との間に幸せの記憶がないことだ。

マイケルをこの世に迎え入れた日の喜び
あの子を初めて腕に抱いた瞬間の幸せ
あの子が初めて歩いた日の驚き
初めて「ママ」と、私を呼んでくれた時の感動、、、

あれができるようになった、これができるようになった

そんなマイケルとの幸せの記憶が、
私には全く無いのだ。

それが、私と夫の最大の違いである。

夫がよく話してくれるのだ。
幼い頃のマイケルは、何の理由もなくいきなり夫のところに駆け寄ってきてぎゅーっと彼を抱きしめ

「I love you, Daddy」

と言う子だったと。

今のマイケルからは想像すらできない。
全く私の知らないマイケルだ。

子供が難しい年齢に突入し、生意気なことを言ったりひねくれた事をしたり、とんでもない大問題を引き起こしてくれたり
どんな親御さんでもきっと頭を抱えるに違いない。
でもそんな時、この子が生まれてきてくれた日自分がどんなに幸せだったか
どれだけの感動を自分にもたらしてくれたか

そういう気持ちに返ることで、親は踏ん張れるのではないかと思うのだ。

雨の渋滞の中、そんな事を考えながら車を運転していた。
今週末の引っ越しを控え、疲労はピークに達しており
仕事もたまっていた。

そんなときは人間、悲観的になるものだ。
もう何もかも投げ出したい気持ちになるものだ。

どうして伝わらないのだろう、と。
マイケルの幸せはマイケルにしか作れないものであり、全て彼次第なのだと。
勉強なんて出来なくてもいい。お金持ちにもならなくていい。私たち親があなたに欲している事はそんなことではない。ただ自分で自分を幸せにできる人であってほしいと。そのためには、自分の下す選択が自分の人生を左右することを理解しなければいけないと。自分の人生は自分がそれまでに下した選択によって出来上がってゆくのだから。

そう今まで何度も話してきたが、息子は必ずといって良いほど
自分にとってマイナスになる道を選択して
そして人生を、自分にとって更に生きにくいものにしてきたのだ。

そんな事を悶々と考えていたら、何だか情けなくて涙がでそうになった。。。

そんな気持ちを抱えて授業へ行き、午前中のクラスを終えて自分のオフィスへ戻ると
珍しくマイケルから携帯メールが届いていた。

長いメッセージだった。

Y, I am very sorry. You’ve told me many times that I have a lot I need to work on to grow up but for some reason it has only this morning really clicked in my head.

Y子、本当にごめんなさい。僕は今まで何度となくY子に大人になるために改善しなきゃならない点がたくさんあると言われてきて、でもその意味が初めて自分の中で腑に落ちたのは、実は今朝が初めてだったんだ。

(中略)

I know what I did was wrong and I am sorry. You have helped me so much since you moved here and I never have once really properly thanked you for that I feel.

自分のしたことが間違っていたことは充分承知してます。本当にごめんなさい。
僕たちと暮らすようになったその日以来、Y子は僕のことをいっぱい助けてくれた。それに対して僕は、ちゃんとお礼を言ったことも無かったように思います。

(中略)

I am sorry I betrayed your trust and all you’ve done is help the past 6 years. You’ve given me chance after chance. And I am sure you feel you have no more chances to give me as this is how I felt with B recently and I lost an extremely close person and best friend last week due to this. I do not want to lose you as family.

この6年間、ただ僕を助けてくれたY子の信頼を裏切ってしまったこと、本当にごめんなさい。
Y子は何度も何度も僕にチャンスをくれた。
今となってはもはやこれ以上僕にチャンスを与える余力も残ってないことと思う。だって、それはまさしく僕が最近 B(マイケルの近しい友達)に対して感じたことだったから。それで初めてY子が今までどんな気持ちだったか理解できた。
Bに関しては、僕の信頼に対する裏切りを許容できず、僕はBという大親友を失った。つい先週のことです。
でも僕は、家族であるY子を失うようなことだけはしたくないんだ。

(中略)

Truth is though I love you, and you’ve been more of a mother than my birth mother. She has given me anything near what you have and I thank you for that. It has brought out a much better person in me than the one I was becoming when I was a teenager.

今まで口にしたこともなかったけれど、Y子のことを愛しています。
Y子は僕にとって、生みの母親よりも母さんだった。
Y子が僕にしてくれた全てのことは、生みの母親など足下にも及ばず
それに僕は心から感謝しています。おかげで僕は、Y子が僕の人生にやってきたティーンエージャーの頃になろうとしてた自分より、ずっとましな人間になることができた。

(中略)

I just wish it hadn’t taken me this long to figure this out especially after hurting you as many times as I have.

そのことに気付くのに、これだけ時間がかからなければ
Y子をこれほど傷つけることもなかったのにと思うと、それが悔やまれます。

(中略)

Non of this is from my father as I have not mentioned to him what I have done.
I am doing the most I could to speak from the heart which has seemed to have taken much effort for me to do in the past.
I am sorry I have always chosen the harder path each time.

親父に何か言われたからこれを書いてるんじゃないんだ。それだけは分かってほしい。
親父は僕が何をしでかしたかまだ知らないんだ。僕がまだ話してないから。

今まで自分の気持ちを心から真摯に語るということが、僕にはとても難しかった。今日は敢えてそれをがんばってやってみた。
いつもいつも皆にとって困難な道を選んできた僕のこと、本当にごめんなさい。

 

ひとり、オフィスのデスクに腰掛け
小さな携帯を両手に抱えながら

涙がぽろりとこぼれた。

実際のメールは、ここで皆さんとシェアした分の10倍の長さがあり
そこには彼の色々な思いが綴られていた。

その中で、

マイケルからの「I love you」という言葉を、
耳にしたことも
こうして文字で目にしたことも
彼に初めて会ったその日以来
これが初めてだった。

あの子のことが心配で眠れなかった夜も

半泣きで叱った日も

実は何の意味もなかったのではないかと、、、
思うことは何度もあった。

でも心から伝えようとした思いは、たとえすぐに芽が出なくてもその子の中に静かに残っているものなのだなあと
時期がきたら芽を出すこともあるのだなあと

感動の瞬間だった。

私が親として
初めてマイケルと共有した、
感動の瞬間だった。

こうして人は、子供によって
親に育ててもらうのだなあ。。。

今日は、実は結婚記念日だった。

おしゃれなレストランでのディナーもなく、プレゼントもなく

明日の引っ越しに向けて、家の中は段ボール箱だらけ。

ダイニングテーブルも売り払ってしまって、閑散とした家の中で
夫とふたり、ビールで乾杯した。

マイケルは今夜は夜中まで仕事だ。

でも結婚5年目を迎えたこの日、私にとっては
息子からのこの真摯な手紙が
何よりのプレゼントだった。

夫に見せたら、夫も泣いていた。

夫と一緒になると決めたその日から、私にはマイケルの親になるという大きな課題が課されており
新婚の甘〜〜い期間など1日たりとも無かった。
難題が次から次へとふりかかり
夫とは
思春期の息子がしでかすそうした問題に対応するため、しっかりとタッグを組んで対応しなければならなかった。

それは、私たち夫婦を強いチームに鍛え上げた。

夫に心から感謝したいのは、
子供を産んだ経験もない「なんちゃって母ちゃん」の私の意見を、彼はいつも尊重してくれたことだ。
マイケルのためにこうしたほうがいいのでは?と私が意見することを
夫はいつも真剣に聞いてくれた。

ありがとう。

だから私もやってこられたのだと思います。

おそらく自分の子供はもう産めないと思うけれど
人様が産んでくれた子供に便乗して、母ちゃんをやっていられる

私は
本当に恵まれたやつなんだと思います。