「二人きりで会えないかな...」
スマホに届いたメッセージの、その文字を見てドキリとした。
二人きりで会いたい。
そんな言葉を男性から受け取ったのは、ん十年ぶりのことだろうか?
だが、その時の「ドキリ」は
胸がきゅっとなるような、心臓の中で何かがふわふわスキップしているような
逸るようなドキドキ感ではなくて
どちらかというと、
ザワザワ、、、感
というのも、そのメッセージを送ってきたのが
息子だったからだ。
私と二人で会いたいなんて申し出てきたのは、初めてのこと。
というか
父ちゃんと二人で会いたいと言ってきたこともない。
そもそも、23歳の若者が親に会いたいなんて
普通は言わないだろう。
そう言ってくる時はどういう時?
何か問題が起きた時でしょう。。。(だからザワザワ (^^;) 苦笑)
私:いいけど、何かあった?
マイケル:ううん、別に。ただちょっと話がしたい。
私:これってお父さんには内緒にしてたほうがいいの?
マイケル:いや、言ってくれて全然構わないけど出来れば親父抜きで会いたい。
私:オッケ〜。。。
息子はその次の日仕事が休みだというので、私の授業が終わった頃、外で待ち合わせして会うことにした。
夫にこの事を告げると
「そう。ゆっくりしておいでよ。何か美味しいものでも食べてきたら」と。
私:メールしてもろくに返事も送ってこない子が「会いたい」なんて、何かあったのかな。
夫:いや、トラブルとかそういうんじゃないと思うよ。たぶん、、、
私:うん?
夫:たぶん、、、女の子のことじゃないかな、。
私:。。。。。。。。
お、おんな〜〜の〜〜こ〜〜!?!?
父ちゃんのこの勘はドンピシャで、
翌日、中華料理店で待ち合わせて席についたマイケルは
彼女が出来たと告げた。
そ、そうなんだ…. 好きな子ができたんだ….
何だかな〜、ホッとしたやらビックリしたやら。
息子はこのひとつ前の恋愛で、自分を見失ってしまうほど傷ついた経験から
ここ2年ほどは浮いた話は全くなかった。
今時のアメリカの若者で、この子みたいなタイプは、実はかなり珍しいかなと思う。
こっちがダメならあっち。
「代わり」はいくらでもいるさという感覚でパートナーをとっかえひっかえする子が多い昨今。
マイケルはそういう感覚でパートナーシップを組まない。
そもそも、ある人の「代わり」なんて
この世にいるはずはないのだ。
だってその人は、世界でたった一人の、その人だから。
なので「その人」と成就しなかった傷を、他の人で癒すことは出来ない。
自分でなんとかしてゆくしかない。
許して、受け入れて、非常に難儀な作業だが
その過程で自分も成長して
いつしか解き放たれる瞬間がくる。
その瞬間をじっと待つしかない。
それが数週間の人もいれば、数ヶ月、数年の人もいる。
マイケルの場合は2年だったようだ。
ただ、前回のダメージの余韻がまだ残っているためか
相手に対してどう自分を表現してゆくか、自分をどう伝えていったらいいのか
自分に対して自信がない
息子はそんな、ちょっと圧倒される感覚にのみこまれている様子。
それで連絡してきたらしい。
普段あまり自分の思いを言葉にして伝えてこない、そんな息子が
彼女とのいきさつ、相手への思いを話すその顔を見ていて
あ〜この子、本気なんだなあ… とわかった。
心から大切に思える相手に巡り会えた息子のことを
本当によかった、嬉しいなと思う反面
いつかまた傷つくかもしれないな、という思いがサッと胸をよぎり
怪我をすることが分かっていて「がんばってこい!」と送り出す
親ならではの
しゅるりと、せつない
胸にメンタム塗られたような、スーッと寒々しい感覚が走った。
相談されたところで
私にしてあげられるアドバイスなど、あまり無い。
恋愛にはマニュアルなど無いし
そのカップルによって、コミュニケーションの形も愛の形も違ってくるもの。
私にもそれなりに恋愛経験はあるし
もう立ち直れないと思うほど傷ついたこともあるが
それでもまた立ち上がって、いつの間にか自分に立ち戻って
人生を続けてこられた。
こればかりは経験して自分を知ってゆくしかない。
そのうち相手に「私ってこういうトコあって、ちょっと面倒くさいんですけど、ヨロシク」と
言葉で伝えることも出来るようになるだろう。
マイケルはまだその途上にいる。
でも話しているうちに直感で感じたことは
息子は必ずしも私からのアドバイスが欲しかったのではなく
あんたはそのまんまで大丈夫よ、という
後押しをして欲しかったのでは?ということ。
「今私に話してくれたみたいなことを、そのまま彼女に伝えれば大丈夫よ。問題ないじゃない。」
という私に
「そんな簡単にできないよ」という息子。
私:なんで?今みたいに素直に相手に伝えるだけのことよ。同じようにすればいいのよ。
マイケル:But it’s not the same with her. You are my mother. You already know me.
(この言葉には正直言って、ちょっと感動した...笑)
確かにね〜、相手が大切だからこそ、怖いのよねえ。。。と内心思いながら
私:マイケル、いずれね、母ちゃんには言えないけど彼女には言えるってならないと、ダメなんだよ。
相手を信用しているなら、怖がっちゃだめ。
あんたが見込んだ娘なら、スペシャルな子なんでしょう?
そんな上等な子に、あなたの誠意が汲み取れないはずがないと思わなきゃ。
過去のことは、過去のこと。
今のあなたは毎日進化してるんだから、もっと今の自分に自信を持ちなさい。
相手に愛情と誠意をもって接しなさい。そうすれば大丈夫だから。
2時間も話しただろうか。。。
一緒に席についた時には「Oh my God, what the heck happened to me!」という顔をしていた息子も
じゃあね、と別れるころには
Thank you, I feel better now
と柔らかい表情に戻っていた。
またねのハグをした後、その後ろ姿を見送りながら
初めて会った14歳の頃の彼を思い出していた。
帰宅して、中華料理店からの手土産をぶら下げて「ただいま〜〜」とドアを開けた私に
「どうだった?」と相方。
私:うん、スティーブンの言ったとおり、やっぱり女の子のことだった。
夫:やっぱりね。
私:なんでそう思ったの。てか、なんであなたじゃないわけ?私アメリカで青春時代過ごしたわけじゃないし、こっちの若者の恋愛事情とかイマイチ分からないし、上手く助言できないよ。
夫:こういう話は普通父親じゃなくて母親にいくものだよ。俺だって、親父じゃなくておふくろに相談してたと思うよ。
私:実際、お義母さんに恋愛のことで相談したことあるの?
夫:いや、最初のカミさんに出会った頃、おふくろもう亡くなってたからさ。でも生きてたら絶対話を聞いてもらいに行ってたと思う。
(義母は夫が18歳の時にガンで他界)
...そうか。そういうものなんだ。
私は20代初めの恋愛のことで親に相談しようなんて思ったことなかったし、したこともない。
これも文化の違い?
それとも、単なる性格の違いなのかな。
夫:マイケルはたぶん、君に「大丈夫!」って背中を押してもらいたかっただけだと思うよ。
という夫の言葉に
私:うん、私もそう思った。だから「あんたはそのまんまで大丈夫」って、しっかり太鼓判押してきた。
と答えた。
私:それでも、、、いつか傷つくかもしれないね。
夫:It cannot be helped. (それは仕方がないよ)
実はこれは去年の11月の話で(相変わらずブログ更新が滞っていてすみません)
この後も息子は彼女との交際が続いており
クリスマス、年末と二人して家に遊びに来た。
100%白人の、うちの息子。
きっと連れてくるパートナーも白人の娘なのが自然だろうから、それはしょうがないと思ってきたのだが
今回のこの彼女、実はアジア人である。
(といっても生まれも育ちもアメリカの、母語も英語のアジア人だが)
息子にとっては初めての、白人でない彼女なのである。
夫曰く「レニアの影響かもね」と言う。
若い二人のこと。これから先はどうなるか分からない。
でも人生で大切なのは、最後の結果がどう出たかではなく
その途中の過程で
自分が何を経験してどう成長したかだと思っている。
親としては、子供に傷ついてなんか欲しくない。
でも残念なことに、傷つかない人生なんて存在しないものだ。
だから
傷つく子供も見守っていく。これも親の務めなのかもなあと、
若い幸せな二人を眺めながら思ったことだった。
あ~、私は最初の一行で「ピンッ」と来ました(^_^;)
私の可愛い息子、ゆとり教育が始まった時中学生となり、ゆとり教育に疑問を持っていた私は、私立に行かせ、大学に行かせ、何故か就職氷河期と言われた期間の真ん中の「学生さん、来て下さい」な時期に、大手銀行へすんなり就職。
今東京で働いていますけど、この前、いつもメールしかくれない彼が珍しく電話をしてきました。
それだけでもアヤシイのに、でも、ドキドキしましたよ。
すると「結婚したい人ができた」と。そりゃめでたい、おかんは、あれこれ言わない、あんたがいいと思ったんだから、いいんだろうと、先日顔合わせも済ませました。
産まれた時から、挫折の無い人生を生きて、タイミング良く、可愛いお嫁さんを貰って、彼女は駅伝の選手であったという「ナマケモノ一家には無いDNA」の持ち主であり、今から孫が楽しみです。
うちは夫が早くに他界したので、おかんに言ったのかもしれません。でも、大体お母さんに言いたいものみたいですよ。
レニアさんの場合、おぼっちゃまは白人で、お相手がアジア人、それは、きっとお母様の影響でしょうね。
うちは、関西人と関東人で、まあ、お話にオチの無いこと(苦笑
相手側のご両親が帰り際に「こんな面白い人達とは思わなかった」と言われた位ですから。
お互い姑となりますね、姑ライフ、どうなります事やら。本当は3月挙式したかったみたいで、もう籍も入れて一緒に暮らしているのですよ。
でも、おかんが3月にイルヴォーロのアメリカツアーに飛んで行くので延期させたんです、何ちゅう親ですやろ(^_^;)
ふ〜さん、
楽しいコメントをありがとうございます。関西人と関東人で話にオチがない!というトコで笑ってしまいました。
ふ〜さんも似たような経験を息子さんとなさったんですね。
息子さんの場合はもう結婚!人生の伴侶を見つけられたのですね。おめでとうございます。
うちの子はそこまで行くにはまだ時間がかかりそうです。彼は働いていますがお相手のお嬢さんはまだ大学生で、彼女もこれから自分の方向性を定めていく時期。
人生の中でも変化の大きい時ですから、この先どうなるかは分からないなと実は思っています。自分を取り巻く環境がお互い変わってきたとき、重ならない部分をどう歩み寄って埋めていくかという作業もこれからせねばならないでしょうしね。
...とまだ起こってもいない事を色々先回りして考えてしまうので、夫には「心配しすぎ!」といつも言われます。
イルヴォーロってイタリアの3人グループですよね?アメリカにツアーに来るとは知りませんでした。コンサートから日本に戻ったら、今度は結婚式の楽しみが待っていますね。(^_^)
ところで「おかん」という言葉がとても好きです。
なんでしょうね、、、お母さん、母ちゃん、お袋もいいんですが、それらに無い温かい響きを感じます。
息子さん本当におめでとうございます。コメントをありがとうございました。
レニア
レニアさんの暖かい心が伝わってきます。文章もとても素敵だけど、心がもっと素敵!!!
息子さん立派なお母さんもって、よかったですね。次楽しみにしてます。
Keikoさん、ありがとうございます。
ちっとも立派じゃないんですよ。あの子が10代の頃はホント、右往左往の日々でした。(^^;)
どんなに語りかけても気持ちって届かないのかな、しかも英語でなんて自分の言いたい事ちゃんと表現できてるのかも分かんないし、、、とよく凹んでました(笑)。
のれんに腕押しだと思っていた頃も、子供は実はちゃんとこちらの言う事を聞いていたようで、今になって「あの時ああ言ったよね」と言うときがあります。
気持ちは言語の壁を越える、ということ。
あの子に身を以て教えてもらったことです。
レニア
こんばんは。
お久しぶりです。
お元気でおすごしのご様子、
何よりです。
息子さんが恋の相談をされてきたのは
喜ばしいことですね。
父親と二人の生活の中に飛び込んで
一生懸命に共にすごしたレニアさんの姿を
そのまま受け入れてきた結果だと思います。
わたしは英語力が乏しいですが
会話の中での彼の言葉に
あなたはお母さんじゃん。
僕のことをよく知っている…
(で、良いのでしょうか) とあるのに
涙が出る想いでした。
二人して遊びに来る姿を思うと
微笑ましいです。
ティーンエイジャーではなく
大人なのに…です。
串子さん、
いつも温かいコメントをどうもありがとうございます。
そうですね。「But you are my mother」の一節には私も一瞬「は?」と止まりました(笑)。というのも息子は普段私のことを Momとは呼ばないんです。名前で呼びます。
なので母親としてあの子に見られているという実感があまり無かったんですね。
有り難いことにお相手のお嬢さんが私と夫に会いたがってくれることが多くて、息子は彼女にリクエストされて家にやってくるという感じでしょうか。
子供が、なんとも言えない眼差しでその彼女を見ているのを見ているのは、これまたなんとも言えない気持ちです(苦笑)。
微笑ましくて嬉しくて、でもちょっと寂しいような、そしてやっぱりすごく心配で。。。羨ましい気持ちもあります。まだ20歳と23歳。何もかもこれからですね。
お姉様はお変わりありませんか。去年は帰国されたのでしょうか。私はとうとう帰れず、今年こそはと思っています。
レニア