100年を生きた女性

(2013年12月6日の記事)

 

すばらしく素敵な女性との出会いがあった。

といっても、直接お会いしたわけではない。

彼女の詩集と出会った。

出会って、2日後には
もう別れがきた。

彼女はすでにこの世に生きていないことを知ったのである。

その方は、なんと90歳を過ぎてから詩人になったという。

彼女の初めての詩集、

「くじけないで」 を

偶然手にして読み始めた。

私は詩は書かないし、普段も詩集等はまったく読まないのだが

彼女の綴る、平素だが優しさと慈愛に満ちたことばたちにグイグイ引き込まれ
ページを進めるうちに
あたたかい涙がじわっと出てきたりした。

読み終わった頃には、この優しいことばたちを世に送り出した詩人に

とことん惚れ込んでしまっていた。

「くじけないで」

ねえ 不幸だなんて
溜息をつかないで

陽射しやそよ風は
えこひいきしない

夢は
平等に見られるのよ

私 辛いことが
あったけれど
生きていてよかった

あなたもくじけずに

柴田トヨさん、2013年1月20日、満101歳で永眠

おバカさんだね。あなたはまだ私の半分も生きていない。
まだ何もわかっちゃいないんだよ。

何だか、そう言ってもらえたような気がして

わけもなく安堵した。
ホッとした。

私はまだ何もわかっちゃいない。
悩んで右往左往して、それが当たり前なのだ。

上手にできなくていい。
上手にできない自分を受け入れよう。
ただ、丁寧に生きよう。
出来映えはイマイチでも、心をこめて事にのぞもう。

そうして丁寧に生きてゆけばそのうち、分かることも少しずつ積もってゆくかもしれない。

100年という時間を丁寧に生きた詩人のことばは

疲れた心の栄養剤みたいに、沁みた。

今からうーんと時間が流れて
私の顔がシワシワ皺だらけになったとき

この聡明な女性のように顔いっぱいで笑って

こんなに綺麗なお顔で笑って

周りにいる人たちに、安らぎと温かさと元気を
ふりまけるような

そんな女性になれているといいな。


「秘密」

私ね、死にたいって
思ったことが
何度もあったの

でも詩を作り始めて
多くの人に励まされ
今はもう
泣きごとは言わない

九十八歳でも
恋はするのよ
夢だってみるの

雲にだって乗りたいわ