大恋愛、その18年後

(2013年6月22日の記事)

恋はいつも甘美。

相手のことが もっともっと知りたい。
自分がどう見られているのか、気になって気になって仕方がない。

共有できる時間も空間も、常に制限されている。

それが相手に対する情熱をさらに燃え上がらせる。

手に入らない相手だったりしたら、なおさらのこと
思慕や嫉妬に
胸を掻きむしられるほどの苦しみを味わうこともあるだろう。

では、その相手が
手に入ってしまったら?

自分のものになってしまったら...?

そこから、、、 どうする?

久しぶりに、非常に見応えのある映画を見てきた。

ビフォア・ミッドナイト (Before Midnight)

ご存知のかたはご存知だと思うが、

この映画は

1995年にリリースされた1作目「ビフォア・サンライズ」

その9年後にリリースされた2作目「ビフォア・サンセット」

この2作からつながっている作品だ。

アメリカ人男性、ジェシー (Ethan Hawke イーサン・ホーク)
フランス人女性、セリーヌ (Julie Delpy ジュリー・デルピー)

この二人は1995年の1作目
ヨーロッパの長距離列車の中でバッタリ出会い、あっという間に恋に落ちる。

でも二人とも旅の途中。
お互い行くべきところがあり、帰る国があり
共にできる時間は夜明け(サンライズ)までの限られた時間。

いずれ「さよなら」を言わなければならない
そしておそらく、二度と会うことはない

そんな相手と過ごす、

切なく、でも確かな時間

ラストシーン、駅のプラットホームで
「半年後に、またここで会おう」と約束し、それぞれの生活に戻ってゆく二人

観客には、「果たして二人は半年後に再会したのだろうか?」と余韻を残すエンディングだった。

そして2作目、「ビフォア・サンセット」は

ジェシーとセリーヌは、半年後ではなく
実は9年後に再会したというところからスタートする。

1作目からずっと同じ俳優を使っているため、

2作目は9年後の2人
3作目は18年後の2人

登場人物の年輪が きっちり俳優のその容貌に刻み込まれており

見ている側に、これ以上にないリアルな

まるで実在するカップルを追っているような感覚を与える。

1995年、まだ20代前半だったふたり。

2004年、30代前半。

そして今回2013年、二人は40代前半。

セリーヌには、先の2作では見られなかった
40代の女性ならではの細かなシワ、そして体型の崩れが見られ
一方男性ジェシーには、頭髪に白いものが多く混じっているのが見受けられる。

これが生身の人間だ。主人公ふたりの容貌に、同年代の一人として非常に親近感を覚えた。

さて、私がこの映画のことを知ったのは2007年ごろ。

高校の同級生にススメられて「おもしろそうだな、見てみようかな」と思ってレンタルしたのがきっかけだった。

見たが最後、瞬く間に作品に引き込まれ
すぐにDVDを購入した。

好き嫌いはあると思う。

人によっては 「どこがおもしろいの〜?」 という人もいる。

なにせ、2作品とも
かいつまんで言えば

登場人物の二人が えんえんと「おしゃべり」しているだけの作品なのだ。

そう、ずーーーーーーっと しゃべっているのです。

二人以外、これといって登場人物はおらず

全てがジェシーとセリーヌの会話を中心に描かれている。

極端な言い方をすると、「おしゃべりだけ」の作品なのだ。

今回の3作目、「ビフォア・ミッドナイト」も例にもれず
2人の途切れることのない会話が 映画の中心を成す。

しかも

ふたりのやりとり、この3作目がシリーズの中で一番リアル。。。
何と言うか、見ていて めちゃくちゃ、、、緊張した。

映画館でとなりに座っていた相方が
「大丈夫か?」と声をかけてきたぐらい、私は腕に力が入っていたらしい (笑)

日本では、2014年の公開なのだそう。
ネタバレになってしまうので、詳細は控えるが

3作目は 「恋」ではなく、「愛」を描いている

それも、甘ったるい
ハート柄のラッピングペーパーで包装されたような愛ではない

「日常」を踏まえた 愛だ。

見ていて、かなりシンドイ。。。(苦笑)

だが一人の人間と、パートナーとして長く向き合った経験のある人なら
誰でも共感出来る
共感できるからこそ、イタい...

そんな作品だと思った。

映画を見る前に読んだ、ある映画評論家の論評にこうあった。

この映画は、現在まだ関係の浅い相手と、
または 問題を抱えるパートナーと見に行く事はオススメできない。
この作品を見ることで取り返しのつかない、修復不可能なケンカが勃発する恐れがあるからだ。

だが、きっちり土台を築き上げた関係にあるカップルが見たならば
お互いを感じ入るのに、これ以上の秀作はないだろう。

夫には、映画館に足を踏み入れる前に
「この映画見たあとも、なるべくケンカはしないようにしよね」と言ってあった。
(半分冗談、半分本気)

先の2作では、主人公2人の繋がりがどうしてもイマイチ強く感じられないと言っていた相方は

今回の3作目を見て
これが一番よかった! と感想を述べた。

セリーヌとジェシーの関係性が、3作品の中で最も真摯にリアルに感じられたと。

そして、ケンカではないのだが

映画館のあと立ち寄ったバーでは、えんえん2時間
ビール片手にふたりで語り合いと相成った。

子供以外のことで、
あんなにヘビーに話しあったのは、本当に久方ぶりだったかもしれない。

愛情の持続、そして二人で綴る平穏な生活は、
お互いの努力なくしては、やはり不可能。
男も我慢する、譲歩する、受け入れる。
女も我慢する、譲歩する、受け入れる。

とりあえずこの結論で落ち着き

「まあ、お互いムカつくことがあっても、これからもよろしく頼んます。」
で、帰路についた。

オー、ハニー、君は僕の天使〜〜〜
愛してるよ。チュッチュッチュッ ♡

なーんてレベルを、とうに過ぎたところにある

哀しくも切実な

でも本物の
男と女の在り方を見てみたい

そんな方には 是非ともおすすめしたい作品だ。

(できれば、先の2作品を見てからの鑑賞をおすすめします)

くれぐれも初デートでは行かれませんように...(笑)

大恋愛の18年後は、

もはや甘くもなく、ロマンチックでもなく

けっして容易くなかった。

手に入れたかった人を、手に入れた後に待っていたのは
現実だった。

でも私はこの2人の50代、60代、そして70代も

ぜひ見てみたいなあと思う。

2022年、2031年、そして2040年に、続編を期待する。